東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)190号 判決
原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。
そこで、審決にこれを取消すべき瑕疵があるかどうかについて判断する。
成立について争いのない甲第二号証(本願の明細書及び補正書)、第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例は、原告の出願に係る電子写真クリーニング装置に関する特許出願公告であつて、そこには別紙第一図のように、基部をホルダに支持された弾性ブレードの先端を感光体に接触させ、そのホルダと感光体の交角<省略>がクリーニング側において<省略>の関係にあるようにホルダが傾斜していることが示されていること、しかしながら、右装置においてはトナーを阻止する(掻き落す)力が弱く、往々にしてブレードの下にトナー粒子が入り込むことがあり、一個所に入り込むとブレードの全長に容易に波及することがあつて、度々ブレードを外してその先端エツジ部を清掃する必要があつたこと、本件発明は右経験に基づき右装置を改良したもので、トナー阻止能力が前記装置のものに比べて著しく大きく、従つてトナーがブレードの下に入り込むことが十分除去される効果を有することが認められる(被告も、一般に掻取板の先端の被清掃物との交角が<省略>より大きい方が掻取効果が大であることは常識であり、<省略>より小さければ汚れを被清掃物に押付ける現象が生じると主張しているところを見れば、本件発明に係る装置のものが第一引用例の装置のものよりトナー阻止能力において秀れていることを認めているものと解される。)。
審決は、ブレードの交角がクリーニング側において<省略>より大きいクリーニング装置は第二引用例、米国特許第二〇六〇〇一八号明細書第六図等に示されており、公知であるから、これを第一引用例の電子写真クリーニング装置に適用して、そのホルダの交角をクリーニング側において<省略>より大きくすることは当業者が容易になし得たことと認められるとする。
しかし、第二引用例(成立について争いのない甲第四号証)のものは硝子拭きであつて、手で持つて使用されるものであるところ、仮にそれが審決の認定するように上から下に摺り動かして使用され、従つてゴム片9(本件発明のブレードに相当すると認められる――別紙参考図参照)と被清掃硝子面とのなす角度が<省略>より大きいものと認められるとしても、まず、そのホルダ(別紙参考図におけるHの部分を指すものと認められる)と被清掃硝子面とのなす角度は<省略>より小さくなつているという点で本件発明と異なつている。さらに、そもそも手で器具を操作して硝子の汚れを清掃するにすぎない第二引用例の属する技術分野と、本件発明におけるような電子写真装置中に設置される感光体のためのトナークリーニング装置の属する技術分野とは異なるのみならず(被告は、大正一〇年七月に改正された特許及実用新案分類表(乙第七号証)によれば、その第四三類二三は「刷子及掃除具雑」とされ、乙第五号証の特許第八一七九九号の印刷機のインキ掃除器に関する発明も、掃除具として分類され、審査されており、硝子拭きと電子写真クリーニング装置とは技術分野を異にするとはいえないと主張するが、右分類表は特許庁の審査の便宜のために作成されたものであつて、右表の同一分類に属するからといつて、そのことで両者の技術分野が同一であるとすることはできない。)、本件発明は、明細書及び図面の記載からみて、ホルダが、運転中感光体面に対して一定位置に固定支持されるものであることが明らかであるのに対して、第二引用例のものは随時手で持つて使用する器具である点でその構成上相違がある。しかして、第二引用例のものは元来手で持つて使用する器具であるため、その圧接力は、使用中手によつて随時任意に調節することが可能であるが、本件発明においては、ホルダが感光体に対して一定位置に固定支持されているため、運転中随時調節することは困難であると考えられることからすれば、ブレードと感光体との交角を限定し、これにより両者間の摩擦力を利用して圧接力を恒常的に増大させることによる本件発明の作用効果は格別なものがあるというべきである。
そうすると、本件発明は第二引用例のものと構成上相違するばかりでなく、その作用効果にも格別なものがあり、しかも技術分野も異なる以上、第二引用例のものに基づいて容易に発明し得たものということはできない。
審決は、米国特許第二〇六〇〇一八号明細書(成立について争いのない甲第六号証)第六図を引いて、ブレードと被清掃面のなす角が<省略>より大きいクリーニング装置は周知であるといつているが、右明細書の発明は、静電気を利用して被清掃面に付着する粒子を吸着してクリーニングする装置に関するもので、その第三図にはブレードと被清掃面とのなす角が<省略>に等しいものが表示されており、第六図はその変形例として、吸着した粒子がブレード上部表面に集積するようにブレードを傾斜させた構成が表示されているにすぎないものであつて、このことから、本件発明の電子写真クリーニング装置におけるブレードと被清掃面とのなす角が<省略>より大きいものが周知であるとすることはできない。被告は、更に、一般に掻取板の先端の被清掃物との交角が清掃側で<省略>より大きい方が掻取効果が大であることは常識であり、<省略>より小さければ汚れを被清掃物に押付ける現象が生じると主張するが、たとえ力学上の一般論としてはそうであるとして、これを考慮に入れても、具体的な本件発明が審決の引用する右引用例から容易に発明することができたものであるとは到底いえない。
以上のとおりであつて、本件発明が引用例から容易に発明することができたものとした審決は違法であつて取消を免れない。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
基部をホルダに支持された弾性ブレードの先端を感光体に接触させ、そのホルダと感光体の交角<省略>がクリーニング側に於て<省略>の関係にあるようにホルダが傾斜し、このホルダから突出して更にクリーニング側に撓むブレードと感光体との交角θ1が<省略>の関係にあるように弾性ブレードを設置したことを特徴とする電子写真クリーニング装置
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
<省略>